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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)213号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

原告 株式会社せんだん

右訴訟代理人弁理士 新実芳太郎外二名

被告 特許庁長官

熊谷善二

【説明】

原告側の請求原因は以下のとおりである。

「一 特許庁における手続

原告(旧商号関東織物商事株式会社)は、別紙(一)表示のとおり、「栴檀」の漢字を左横書きしてなり、指定商品を第一六類「織物、編物、フエルト、その他の布地」とする商標(以下、「本願商標」という。)につき、昭和四七年二月二五日商標登録の出願をしたところ、昭和五〇年四月一〇日拒絶査定を受けたので、同年七月九日審判を請求し、特許庁昭和五〇年審判第六二〇〇号事件として審理されたが、昭和五二年一〇月一四日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その審決の謄本は同年一一月三〇日原告に送達された。

二 審決の理由

(一) 本願商標の構成及び指定商品は前項記載のとおりである。

これに対し、登録第四八八六一八号商標(以下、「引用商標」という。)は、別紙(二)表示のとおり、「尖端」の漢字及び「SENTAN」の欧文字を二段に左横書きしてなり、旧第三一類「木綿織物」を指定商品とし、昭和三〇年一二月六日登録出願されて昭和三一年九月二四日に登録され、その後昭和五一年一一月八日商標権存続期間更新の登録がされているものである。

(二) そこで、本願商標と引用商標との類否について判断するに、本願商標からは「センダン」、引用商標からは「センタン」の各称呼が生ずる。そして、両者は、ともに四音からなり、その差異は僅かに第三音において、前者が濁音の「ダ」であるのに対し、後者は清音の「タ」であるにすぎない。しかも、これらは、ともに「ア」の母音を共通にする近似音であるから、両者をそれぞれ全体として称呼するときは、その聴感が近似し、互いに聴別することが困難であるから、両商標は称呼上類似する商標といわなければならない。

したがつて、本願商標と引用商標とは、外観、観念の点につき判断するまでもなく、称呼上相紛らわしい類似の商標であり、かつ、本願商標の指定商品中には引用商標の指定商品を包含するものであるから、結局、本願商標は、商標法第四条第一項第一一号に該当し、登録することができない。

三 審決の取消事由

本願商標と引用商標は、称呼上顕然と区別しうるのみならず、外観及び観念においても明瞭な差異があり、取引の実情に照し何ら相紛れるおそれがない非類似のものであるにもかかわらず、本件審決は、両商標が称呼上類似するものであるとの誤つた判断をした違法があるから、取消されるべきである。

(一) 両商標の称呼を比較するに、本願商標からは「センダン」、引用商標からは「センタン」の各称呼が生ずるところ、両者はいずれも四音からなるものであり、そのうち第二音と第四音は比較的聞取りにくい撥音であるから、聴覚に訴える最も注目されやすい音は第一音と第三音にあるということができる。そして、第三音における「ダ」と「タ」は、前者が濁音、後者が清音という顕著な相違があり、このように実質上二音ともいうべき構成音のうち一音が顕著に異なる以上、称呼上互いに相紛れるおそれはない。

(二) 両商標は、外観において明瞭な差異があり、また、本願商標は、「栴檀は双葉より芳し」なる諺で広く知られている「栴檀という名の喬木」の観念を生ずるのに対し、引用商標は、「尖端」の文字から「尖つた端」の観念を生ずるものである。したがつて、本願商標を観察してまず最初に理解されるのは、「栴檀という名の喬木」の観念であり、これに付随して「センダン」の称呼が記憶の補助手段として認識されるのであり、一方、引用商標を観察して理解されるのは、「尖つた端」なる観念であり、これに付随して「センタン」の称呼が記憶保持に補助的に役立つのである。右のとおり両商標は、表音文字のみからなり直ちには特定の観念を生じない商標と異なり、それぞれ特有の観念との結合において認識、記憶されるものであるから、互いに相紛れるおそれはない。

ところで、本願商標の指定商品のうち、引用商標の指定商品と類似する関係にあるのは、織物(テープ、リボン及び畳緑を除く。)だけであるが、織物は需要者の要求に個人差が激しく、流行に左右されるものであるから、一般消費者がこれを購入しようとする場合は、商品を手に取つてみて、自分の希望に合致するか否かを調べるのが普通であり、また、そうすることが当然に許されているのである。さらに、卸売業者と小売業者間の取引においても、常に消費者の要求を考慮し、商品を選択する必要があるため、現物を視覚、触覚により確認して、始めて取引が成立するのである。したがつて、織物の取引においては、現物を見ないで商標名と商品名のみを指定して取引されることはほとんどなく、口頭のみによる取引は全く考えられないのが実情である。

以上のとおり、両商標は、称呼上多少の共通性があるとしても、外観及び観念において顕著な差異があり、いずれも特定の観念を中心とする商標であることや共通ないし類似の指定商品である織物に関する取引態様の実情を考慮し、両商標を全体的に観察するならば、商品の出所に混同誤認を生ずる可能性はなく、取引上明確に区別されるから、相紛れるおそれのない非類似のものというべきである。」

【判旨】

一請求原因一、二の事実、すなわち、本願商標についてされた登録出願から本件審決の成立に至るまでの特許庁における手続の経緯、本件審決の理由並びに本願商標及び引用商標の各構成と指定商品については、当事者間に争いがない。

二そこで、請求原因三において原告が主張する本件審決の取消事由の存否につき判断する。

(一) 本願商標から「センダン」の称呼が、引用商標から「センタン」の称呼がそれぞれ生ずることは、当事者間に争いがなく、両者は、いずれも四音からなり、各第三音の「ダ」と「タ」のみが相違し、その他の音はすべて同一であり、アクセントの置き方、語調においても差異のないことが明らかである。そして、「ダ」と「タ」は、前者が濁音、後者が清音であるという相違はあるが、いずれも舌先を上歯の後方に密着して破裂させて調音する音であり、母音「ア」を共通にしているものである。したがつて、両商標をそれぞれ一連に発音するときは、語韻語調が近似し、相紛れるおそれがあり、両商標は称呼においても類似するものといわざるをえない。

(二) 本願商標と引用商標とは外観上差異があること及び本願商標を構成する「栴檀」の文字が「栴檀という名の喬木」の意味を表わし、引用商標の構成に含まれる「尖端」の文字が「尖つた端」の意味を表わすことは、当事者間に争いがないから、両商標は、外観及び観念において相違しているというべきものである。

しかしながら、両商標における「栴檀」及び「尖」の各文字はいずれも当用漢字表にない文字であるところ、この表は、法令・公用文書・新聞・雑誌及び一般社会で、使用する漢字の範囲を示したものであつて、この表の漢字で書きあらわせないことばは、別のことばにかえるか、かな書きにする、また、動植物の名称は、かな書きにするとされているので、右各文字は、勢いかな書きにされることが多くなることのほか、「栴檀」は「せんだんは双葉より芳し」(なお、この「せんだん」は、白檀のことであり、異種とされる。)なる諺で知られているものの、この喬木を見るなどして現実に知つている者は意外に少なく、その名称を聞き知るにすぎない者も多く、ことに若い世代などには、それだけ親近性が薄いこと、「尖端」は、「尖つた端」の意味だけでなく、「時代の尖端」、「流行の尖端」という場合の「先駆け」、「先頭」という意味をも表わすが、いずれにしても、具体的な事物事象というよりやや抽象的観念的な概念を表わす言葉であること等を併せ考えると、取引者、需要者が両商標に接して受ける印象、認識は、多様となり、必ずしも画一的ではなく、ひいて、原告が主張するように、両商標は、常に観念を中心にしてこれとの結合においてのみ認識、記憶されるとは限らず、かえつて、外観、称呼又は観念のいずれかにより記憶されることも少なくないというべきである。そうすれば、両商標がそれぞれ使用された商品については、その外観、称呼又は観念のいずれかにより記憶され、したがつて、称呼により取引される場合も相当にあることは、経験則上これを認めうるところである。

ところで、原告は、本願商標の指定商品中、引用商標の指定商品と同一又は類似の商品である織物の取引は常に現物を確認してその場で行なわれ、口頭のみによる取引は全く考えられないのが実情である旨主張するが、右主張を認めるに足る証拠はなく、むしろ、織物は、多種多様且つきわめて普通にみられる商品であつて、その性質上大量生産、大量販売の対象ともなりうるものであり、取引者、需要者も広範囲に多数存在し、取引の態様、また、一取引についても完結までの各過程の態様が多様に存しうるから、その間、商標の称呼によつて取引され、商品の識別がされる場合の少なからず、ありうることは明白である。

したがつて、両商標は、外観及び観念において相違するとはいえ、称呼において類似し、それぞれ商品木綿織物あるいは織物などについて使用された場合、商品の出所につき混同誤認を生ぜしめるおそれがあるから、類似の商標であるといわざるをえない。

(三) 以上の次第であつて、本件審決には、原告主張の取消事由はなく、その結論は正当である。

(荒木秀一 橋本攻 永井紀昭)

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